健診異常シリーズ⑭|腹囲男性85cm・女性90cmはメタボ?本当の意味を糖尿病専門医が解説!
健康診断で、
「お腹まわりを測りますね」
と言われて、メジャーで腹囲を測られた経験がある方も多いと思います。
なぜ健康診断では、わざわざ腹囲を測るのでしょうか?
太っているか確認しているだけでしょ?
と思われるかもしれません。
実は違います。
健康診断で腹囲を測る大きな目的は、
お腹の中にたまった「内臓脂肪」を推測すること
です。
そして、この内臓脂肪は糖尿病・高血圧・脂質異常症などが連鎖していく
「メタボリックドミノ」のかなり上流に位置します。
今回は、健康診断で測定する「腹囲」について糖尿病専門医が解説します。
なぜ健康診断で腹囲を測るの?
腹囲は、単純に「太っている・痩せている」を判定するための検査ではありません。
本当に知りたいのは、
内臓脂肪がどのくらいたまっているか
です。
内臓脂肪をより直接的に評価する方法の一つがCTです。
おへその高さでCTを撮影すると、
内臓脂肪面積(VFA:visceral fat area)を測定できます。
しかし、健康診断を受ける全員にCTを撮影することは現実的ではありません。
そこで、
メジャー1本で簡単に内臓脂肪の蓄積を推測する方法
として腹囲測定が使われています。
「男性85cm・女性90cm」はどこから出てきた?
日本のメタボリックシンドローム診断基準では、
男性:腹囲85cm以上
女性:腹囲90cm以上
が内臓脂肪蓄積の目安とされています。
この数字が適当に決められたわけではありません。
日本では、
CTで測定した内臓脂肪面積100cm²以上
を内臓脂肪蓄積の基準とし、
それに相当する腹囲として男性85cm・女性90cmが設定されました。(*1、2)
つまり、
内臓脂肪面積100cm²
↓
健診で全員にCTはできない
↓
腹囲で推測する
↓
男性85cm・女性90cm
という考え方です。
腹囲測定は、いわば内臓脂肪を簡便に推測するためのスクリーニングなのです。
腹囲85cmを超えたら「メタボ」なの?
ここはよく誤解されます。
男性で腹囲85cmを超えただけでは、メタボリックシンドロームとは診断されません。
日本のメタボリックシンドロームの診断基準では、
内臓脂肪蓄積に加えて、
-
血圧高値
-
血糖高値
-
中性脂肪高値またはHDLコレステロール低値
のうち、2項目以上を満たすことでメタボリックシンドロームと診断します。(*1)
つまり重要なのは、お腹の大きさそのものではありません。
内臓脂肪が増えた結果、血圧・血糖・脂質にも異常が出始めていないか
を見ることが大切です。
内臓脂肪から始まる「メタボリックドミノ」
慶応義塾大学病院KOMPASより
内臓脂肪が増えると、インスリン抵抗性などの代謝異常につながります。
そして、
過食・運動不足など
↓
内臓脂肪の蓄積
↓
インスリン抵抗性
↓
高血糖・高血圧・脂質異常
↓
糖尿病・脂肪肝・CKD
↓
動脈硬化
↓
心筋梗塞・脳卒中
と、病気がドミノ倒しのように連鎖していくことがあります。
これが「メタボリックドミノ」という考え方です。(*3)
つまり腹囲測定は、
ドミノが大きく倒れる前に、上流で異変に気づくための簡単な検査
とも考えられます。
でも「女性90cm」って少し甘くない?
ここが日本の腹囲基準の興味深いところです。
日本の基準は、
男性85cm・女性90cm
ですが、腹囲の基準は世界共通ではありません。
IDF(国際糖尿病連合)では、
人種・民族によって異なる腹囲の基準が示されています。
例えば、南アジア人や中国人では、
男性90cm以上
女性80cm以上
が用いられています。(*4)
日本人についても、IDFでは従来の日本基準とは別に、
男性90cm・女性80cmという
Asian cut-offを用いることを支持するデータがあるとされています。(*4)
つまり、
「日本の基準で女性90cm未満だから安心」
とは言い切れません。
日本人女性は80cmくらいから注意?
実際、日本人を対象とした研究でも、
特に女性では
80cm前後を適切な腹囲の目安
とする報告があります。
Haraらの日本人を対象とした研究では、
代謝リスクを拾い上げる腹囲のカットオフとして、
男性85cm
女性80cm
が報告されています。(*5)
また久山町研究では、将来の心血管疾患を予測する腹囲として、
男性90cm
女性80cm
が示されました。(*6)
さらに、日本人約5万5千人を対象に糖尿病発症を検討した研究でも、
適切な腹囲のカットオフとして
男性85cm
女性80cm
が報告されています。(*7)
研究によって数字には多少の違いがありますが、
特に日本人女性では「90cm未満だから問題なし」
とは言い切れません
腹囲90㎝は国際的にも緩い基準です。
そもそも「男女とも内臓脂肪100cm²」でいいの?
さらに興味深い研究があります。
CTで内臓脂肪を実際に測定した日本人を対象とした研究では、
複数の代謝リスクを予測する内臓脂肪面積として、
男性:約100cm²
女性:約65cm²
が示され、それぞれ腹囲では約86cm、77cmに相当しました。(*8)
つまり、
「男女とも内臓脂肪100cm²を同じ基準にしてよいのか?」
という出発点そのものにも議論があります。
もちろん、現在の日本の正式な診断基準は男性85cm・女性90cmです。
しかし、
基準未満=生活習慣病のリスクがない
という意味ではありません。
BMIが正常なら腹囲は気にしなくていい?
これも注意が必要です。
BMIは身長と体重から計算するため、脂肪が「どこについているか」までは分かりません。
同じBMIでも、内臓脂肪の量には違いがあります。
そのため健康診断では、
BMI + 腹囲 + 血圧 + 血糖 + 脂質
を組み合わせて見ることが重要です。
健診で腹囲が大きいと言われたら?
腹囲だけで判断するのではなく、
-
体重・BMI
-
血圧
-
血糖・HbA1c
-
中性脂肪
-
HDLコレステロール
-
LDLコレステロール
-
肝機能・脂肪肝
なども一緒に確認しましょう。
大切なのは、
「メタボリックドミノが動き始めていないか?」
という視点で健診結果全体を見ることです。
腹囲測定は「太っているか」を測る検査ではありません
健康診断でメジャーをお腹に巻くのには、ちゃんと意味があります。
腹囲測定の目的は、
見た目の肥満を評価することではなく、
その奥にある内臓脂肪と生活習慣病のリスクを見つけること
です。
日本の男性85cm・女性90cmという基準には、
CTで測定した内臓脂肪面積100cm²という背景があります。
一方、その後の研究では、
特に日本人女性について80cm前後から代謝異常に注意した方がよいことを示すデータもあります。
「まだ基準値を超えていないから大丈夫」ではなく、
腹囲が増えてきた段階で血圧・血糖・脂質なども一緒に確認する。
メタボリックドミノをできるだけ上流で止める。
それが健康診断で腹囲を測る大きな意味です。
参考文献
1)メタボリックシンドローム診断基準検討委員会.
メタボリックシンドロームの定義と診断基準. 日本内科学会雑誌. 2005;94:794-809.
→ 日本の85cm/90cm、VFA 100cm²の原典。 厚労省資料でも「男女とも内臓脂肪面積≧100cm²に相当」と確認できます。(厚生労働省)
2)Japan Atherosclerosis Society.
Japan Atherosclerosis Society Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Diseases 2022. J Atheroscler Thromb. 2024;31.
3)Alberti KGMM, Zimmet P, Shaw J.
Metabolic syndrome—a new world-wide definition. A Consensus Statement from the International Diabetes Federation. Diabet Med. 2006;23:469-480.
4)Miyawaki T, Hirata M, Moriyama K, et al.
Metabolic syndrome in Japanese diagnosed with visceral fat measurement by computed tomography. Proc Jpn Acad Ser B. 2005;81:471-479.
5)Doi Y, Ninomiya T, Hata J, et al.
Proposed criteria for metabolic syndrome in Japanese based on prospective evidence: the Hisayama Study. Stroke. 2009;40:1187-1194.
6)Hu H, et al.
Optimal waist circumference cut-off points and ability of different metabolic syndrome criteria for predicting diabetes in Japanese men and women. BMC Public Health. 2016;16:220.
男女ともに腹囲85㎝超えたら要注意です。
【関連ブログ】
生活習慣病関連
悪玉コレステロールを爆上げする食べ物10選!糖尿病専門医が解説!
痛風は贅沢病? 尿酸値を爆上げする食べ物・飲み物ランキングTOP10
メタボ=太っている人ではありません|糖尿病専門医がメタボリックシンドロームをわかりやすく解説
【クリニック情報】
- クリニック名: 沼口内科江古田駅北口糖尿病クリニック
- 住所: 東京都練馬区小竹町1-36-5 1階 [アクセス]
- アクセス:
西武池袋線「江古田駅」北口 徒歩約4分
都営大江戸線「新江古田駅」徒歩約10分
東京メトロ有楽町線・副都心線「小竹向原駅」徒歩約10分
東京メトロ有楽町線・副都心線「千川駅」徒歩約15分 - 院長: 沼口隆太郎(糖尿病専門医・認定内科医)
- 診療内容: 内科・糖尿病・生活習慣病・発熱・抗体検査(自費)/ワクチン(自費)・健康診断(自費)/診断書(自費)
ご予約はこちら|江古田、千川・小竹向原で内科の診察を受けるなら
当院は練馬区江古田だけでなく、
新江古田・小竹向原・千川周辺や、豊島区西部・池袋方面からも通院しやすい立地です。
糖尿病専門医による診療をご希望の方や、
健康診断で異常を指摘された方、
生活習慣病について相談したい方はお気軽にご相談ください。
▶︎ お電話でのご予約: [03-5926-4553】
▶︎ ネット予約: [ご希望の診療科をクリックして予約してください]
▶︎ 診療時間・休診日: [リンク]

Q&A(よくあるご質問)
Q. 健康診断ではなぜ腹囲を測るのですか?
A. 見た目の肥満を判断するためではなく、生活習慣病と関連する内臓脂肪の蓄積を簡便に推測するためです。Q. 男性の腹囲85cmにはどんな根拠がありますか?
A. 日本ではCTで測定した内臓脂肪面積100cm²以上を内臓脂肪蓄積の目安とし、それに相当する腹囲として男性85cmが設定されました。Q. なぜ女性の腹囲基準は90cmなのですか?
A. 日本のメタボリックシンドローム診断基準では、男女とも内臓脂肪面積100cm²を基準とし、それに相当する腹囲として女性90cmが設定されました。Q. 女性は腹囲90cm未満なら安心ですか?
A. いいえ。日本人女性では、代謝異常や将来の糖尿病・心血管疾患のリスクを予測する腹囲として80cm前後を示した研究もあります。90cm未満でも血糖・血圧・脂質などと合わせて評価することが大切です。Q. 腹囲85cmを超えるとメタボですか?
A. 腹囲だけではメタボリックシンドロームとは診断されません。日本の基準では内臓脂肪蓄積に加えて、血糖・血圧・脂質の3項目のうち2項目以上を満たす必要があります。Q. BMIが正常なら腹囲が大きくても問題ありませんか?
A. BMIだけでは脂肪がどこについているか分かりません。BMIが正常でも内臓脂肪が多い場合があるため、腹囲や血糖、血圧、脂質などを一緒に確認します。Q. 内臓脂肪と糖尿病にはどんな関係がありますか?
A. 内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性と関連し、高血糖・高血圧・脂質異常などが重なっていく「メタボリックドミノ」の上流に位置します。Q. 健診で腹囲が大きいと言われたら何を確認すればよいですか?
A. 腹囲だけでなく、体重・BMI、血圧、血糖・HbA1c、中性脂肪、HDLコレステロール、肝機能や脂肪肝なども確認しましょう。
