メタボリックドミノとは?生活習慣病の「つながり」と現在地を糖尿病専門医が解説
健康診断の結果を見て、
血糖値が少し高い
血圧も少し高い
中性脂肪も高め
お腹まわりも気になってきた
そんな経験はありませんか?
一つひとつを見ると、「まだ薬を飲むほどではない」「少し様子を見てもいいかな」と思う程度かもしれません。
しかし、生活習慣病を考えるうえで大切なのは、
それぞれの数値をバラバラに見るのではなく、
複数の要因が同時に重なっていること
それが時間とともにどう変化しているか
です。
この考え方を、とてもわかりやすく表したものが「メタボリックドミノ」です。
慶應義塾大学病院KOMPASより
私は実際の糖尿病・生活習慣病診療でも、
患者さんへの説明にメタボリックドミノの図を使うことがあります。
なぜなら、自分の検査結果をドミノの中に当てはめてみることで、
「自分のドミノは今どこなんだろう?」
と、生活習慣病の「現在地」を考えやすくなるからです。
メタボリックドミノとは?
メタボリックドミノは、
生活習慣の乱れや肥満、インスリン抵抗性などを背景として、
血糖・血圧・脂質などの異常が重なり、
さらに動脈硬化や臓器障害へとつながっていく様子を、
倒れていくドミノにたとえた考え方です。
伊藤裕先生によって2003年に提唱されました。
2003年の論文では、
従来のメタボリックシンドロームという「危険因子の集積」に、時間の流れと連鎖反応という視点を加えた概念として説明されています。(PubMed)
2006年の論文では、
生活習慣の変化から肥満・インスリン抵抗性、食後高血糖、高血圧、脂質異常、動脈硬化などへと進んでいく流れとして、さらに体系的に示されました。(PubMed)
つまり、
「血糖が高い」
「血圧が高い」
「コレステロールが高い」
という病気を一つずつ見るだけではなく、
なぜそれらが同じ人に起こり、時間とともに何につながっていくのか
を見るための「地図」のようなものです。
メタボリックドミノはどのように生まれた?
実は、生活習慣病が互いにつながっているという考え方は、メタボリックドミノより前から研究されていました。
1988年:Reaven「Syndrome X(シンドローム・エックス)」
1988年、Gerald Reavenは
インスリン抵抗性を背景として、耐糖能異常、高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症、高血圧などが同じ人に集まりやすいことを
「Syndrome X」として提唱しました。
重要なのは、インスリン抵抗性は肥満した人だけにみられるものではなく、
肥満のない人にも存在することがすでに指摘されていた点です。(PubMed)
1989年:Kaplan「Deadly Quartet」
翌1989年、Kaplanは、
上半身肥満・耐糖能異常・高中性脂肪血症・高血圧
という4つの組み合わせを
「Deadly Quartet(死の四重奏)」と表現しました。
これらが偶然一緒に起こるのではなく、
上半身肥満や高インスリン血症などを介して関連している可能性を示しました。(PubMed)
1991年:DeFronzo & Ferrannini「インスリン抵抗性症候群」
1991年にはDeFronzoとFerranniniが、
インスリン抵抗性を、2型糖尿病、肥満、高血圧、脂質異常症、動脈硬化性心血管疾患などを結びつける病態として整理しました。(PubMed)
このように1990年代までには、
「糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満などは、それぞれ独立して存在するだけではなく、共通する背景を持って同じ人に重なりやすい」
という考え方が形成されていきました。
そして、ここに新しく「時間」と「連鎖」という視点を加えたのが、2003年のメタボリックドミノです。(PubMed)
2003年に誕生し、その後も進化してきたメタボリックドミノ
メタボリックドミノは、単なる「生活習慣病の一覧表」ではありません。
2003年の提唱から約20年の間にも考え方は更新され、
下流には「がん」や「サルコペニア」が加えられ、
さらに研究から肥満より上流の腸管炎症にも注目するなど、概念そのものが発展してきました。(慶應義塾大学)
しかし、患者さんにメタボリックドミノを説明するとき、私が特に重要だと思うポイントはもっとシンプルです。
それが、
① 病気の「重なり」
② 病気の「時間経過」
です。
伊藤先生自身も、メタボリックドミノが示した重要な概念として、
この「病気の重なり」と「時間経過」を挙げています。(慶應義塾大学)
メタボリックドミノで大切な①「病気の重なり」
健康診断では、どうしても一つひとつの数字に目が向きます。
- 血圧が少し高い。
- HbA1cが少し高い。
- 中性脂肪が少し高い。
- 腹囲も少し増えている。
それぞれ単独では、大きな異常に見えないこともあります。
しかし重要なのは、
「軽い異常がいくつ重なっているか」
という視点です。
2003年のメタボリックドミノの論文でも、
高血圧、脂質異常、耐糖能異常などの心血管リスク因子が一人の人に集積すると、
互いに作用しながら心血管リスクを増幅させることが説明されています。(PubMed)
たとえば、
「血糖だけ少し高い人」
と、
「血糖も少し高い、血圧も少し高い、中性脂肪も高い、腹囲も増えている人」
では、同じ「血糖値」だけを見ていても意味が違います。
だから糖尿病専門外来でも、HbA1cだけを見て診療しているわけではありません。
血圧、脂質、体重、腹囲、肝機能などを含めて、その人全体を見ることが重要です。
メタボリックドミノで大切な②「時間」
もう一つ、メタボリックドミノの大きな特徴が時間軸です。
健康診断の結果を見るとき、
「今年は基準値を超えたか、超えていないか」
だけで判断してしまいがちです。
しかし、私は過去数年間の変化も重要だと考えています。
たとえばHbA1cが、
5.5%→ 5.7%→ 5.9%→ 6.1%
と変化していたとします。
今年の「6.1%」という一点だけを見るのと、
数年間かけて上昇してきた流れを見るのでは、受け取る情報が違います。
体重、腹囲、血圧、中性脂肪なども同じです。
メタボリックドミノは、病気を静止画ではなく、
時間とともに進んでいく動画のように考えることができます。
伊藤先生の解説でも、初期には一つずつ倒れていたドミノが、
放置することで複数の病態へ広がっていくという「時間」の重要性が説明されています。(慶應義塾大学)
だからこそ、
「まだ少し高いだけだから大丈夫」
ではなく、
「去年よりドミノが進んでいないか?」
を見ることが大切です。
なぜ実際の診療でメタボリックドミノを使うのか
私は糖尿病・生活習慣病の診療で、患者さんへの説明にメタボリックドミノを使うことがあります。
理由は単純で、わかりやすいからです。
「インスリン抵抗性があります」
「複数の心血管リスク因子が集積しています」
と言われても、患者さんにはなかなかイメージしにくいと思います。
ところがドミノの図を見ると、
「高血圧はここ」
「脂肪肝はここ」
「糖尿病はここ」
「生活習慣を見直して痩せたらよくなる」
と、患者さんの中で起こっている代謝異常を一枚の図の中で見ることができます。
ここで大切なのは、医師が、
「あなたはここです」
と一方的に決めつけることではありません。
患者さん自身が図を見ながら、
「自分のドミノは今どこなんだろう?」
と考えられることに意味があります。
メタボリックドミノは、患者さんと医師が現在地を共有するための「地図」として使えるのです。
「自分のドミノは今どこ?」と考えてみる
たとえば健康診断で、
-
腹囲が増えてきた
-
血圧が高くなってきた
-
中性脂肪が上がってきた
-
HbA1cが少しずつ上昇している
という人がいたとします。
一つひとつについて、
「まだ軽いから大丈夫」
と考えることもできます。
でもメタボリックドミノの上に並べてみると、
「いくつかのドミノがすでに動き始めているかもしれない」
と気づくことができます。
逆に、すでに糖尿病や高血圧の治療を受けているからといって、
「もうドミノが倒れたから手遅れ」
という意味ではありません。
ここは非常に大切です。
ドミノはどこで止めても意味がある
メタボリックドミノを見ると、
「一度倒れ始めたら全部倒れてしまうのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、実際の診療でこの図を使う目的は、患者さんを怖がらせることではありません。
むしろ、
「次のドミノを倒さないために、今できることを考える」
ためです。
体重が増えてきた段階なら、食事や運動を見直す。
血圧が高くなってきたら、家庭血圧を測り、必要なら治療する。
血糖が上がってきたら、糖尿病になる前から生活習慣を見直し、必要な検査を受ける。
すでに糖尿病があれば、血糖だけではなく、血圧や脂質なども含めて治療する。
すでに倒れたドミノを立て直す作業も大事なのです。
どの段階からでも、その先のドミノを防ぐことには意味があります。
だから私は、メタボリックドミノを「怖い未来の図」ではなく、
これから何を守ればいいのかを考えるための図
として使っています。
まとめ|健康診断は「一つの数字」ではなく「現在地」を見る
生活習慣病は、一つの病気だけが突然現れるとは限りません。
血糖、血圧、脂質、体重、腹囲などの変化が少しずつ重なり、時間とともに次の病気へつながっていくことがあります。
メタボリックドミノから特に知っていただきたいのは、
「病気の重なり」と「時間経過」
という2つの視点です。
健康診断で一つひとつの数字を見ることも大切ですが、
「いくつの異常が重なっているのか」
「数年間でどのように変化しているのか」
「自分のドミノは今どこにあるのか」
という視点でも、ご自身の結果を見てみてください。
そして、もしドミノが一つ倒れ始めていたとしても、そこで終わりではありません。
次のドミノを倒さないこと。
そのために、今できることから始めていきましょう。
参考文献
-
Reaven GM. Banting lecture 1988. Role of insulin resistance in human disease. Diabetes. 1988;37(12):1595-1607. (PubMed)
-
Kaplan NM. The Deadly Quartet: Upper-Body Obesity, Glucose Intolerance, Hypertriglyceridemia, and Hypertension. Arch Intern Med. 1989;149(7):1514-1520. (PubMed)
-
DeFronzo RA, Ferrannini E. Insulin Resistance: A Multifaceted Syndrome Responsible for NIDDM, Obesity, Hypertension, Dyslipidemia, and Atherosclerotic Cardiovascular Disease. Diabetes Care. 1991;14(3):173-194. (PubMed)
-
Itoh H. What is 'metabolic domino effect'?--new concept in lifestyle-related diseases. Nihon Rinsho. 2003;61(10):1837-1843. (PubMed)
-
Itoh H. Metabolic domino: new concept in lifestyle medicine. Drugs Today (Barc). 2006;42 Suppl C:9-16. (PubMed)
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